終わらない「トヨタ」
おととしの11月、自分は「最強トヨタ、終わりの始まり」「昨日のトヨタの記事」で、トヨタを批判する記事を書きました。しかしトヨタは終わらないだろう、と最近おもうようになりました。きっかけは通所している就労支援センターでの内職作業です。障碍をもつメンバーだけで工賃ひとつ数銭という作業をしていますが、内職とはいえ、ひとつ数銭という工賃とはいえ、ものづくりであり、付加価値をつけて取引先に納品していることには違いないのです。このことの意味を通所し始めて2週間目くらいから感じるようになりました。10年間勤めた大手スーパーでは銭単位の付加価値もつけられない、コストをかけるための作業に満ち満ちていました。それはよそでもそうらしいのです。誰も読まない日報や書類書きに翻弄され生徒や児童と触れ合う時間がまともにとれないと嘆く先生や保育士さんを何人か知っています。
ものづくりの現場では様々なことが起きます。チームワークで作業を進めているから、一人の勝手な行動や判断ミスが不良品をつくったり、最終的な納品数の不足につながったりします。三障碍の人が共同でやっていますから、知的障碍をもち養護学校を卒業してすぐにこの世界に飛び込んだ若い人もいれば、就労経験がありかなり年配の身体障碍の方、自分みたいな精神障碍の人もいます。障碍をもつという点だけが共通で、経験や能力、判断力、コミュニケーション力は大差があります。だからこそ「べてる」ではありませんがトラブルだらけです。トラブルを回避するためには「誰がやってもこなすことが出来てそれぞれの能力に応じて付加価値を生産できる」手順や方法を編み出す必要があります。その「カイゼン」への意欲がすさまじいのです。しょせん障碍者の作業所だなんて馬鹿にしていたらとんでもないことです。自分も大きな影響を受けました。そこでトヨタに「カイゼン」というプロセスを植え付け、トヨタ式生産方式を作り上げた大野耐一氏や「トヨタ」という会社自体を研究する書物を読んだりしています。
「ジャスト・イン・タイム」納入方式というのを一度は聞いたことがある方は多いでしょう。もちろん「必要な時に必要な分だけの部品を用意する」ことですが、これは自社の生産プロセスのカイゼン無しに、ただ納入する取引先に納期だけ押し付けるようなことをすれば凶器になります。労働組合系の人々をはじめ、中小企業や下請け企業の中にはこれでえらいめにあっていると思っている場合もあるでしょう。しかし、本当のジャスト・イン・タイムとは自社のプロセスのカイゼン活動であり、それがうまくいってから無理なく取引先に社員を送り込み手順を伝えて「カイゼン」を連鎖させ、資源や労働力の無駄遣いを省いていく活動なのでした。それが結果としてコスト削減になるのですが、短絡的な視野でとりくんでもうまくいかないものなのです。協力会社(取引先・下請け企業)の在庫保管のための倉庫がなくなっていくのを大野氏は大変よろこんでいます。自社だけ繁栄すればいいという考えからの「ジャスト・イン・タイム」ならば、下請け会社はいつどんな注文にも応じられるよう倉庫に様々な在庫を抱えておかねばなりません。それでは本質的な「カイゼン」は出来ないし、本質的な無駄やコストも減らすことが出来ないのです。
今でもこうした協力企業はトヨタから教えられた生産方式(これは実践の中にあり、いくら書物を読んで分かった気になっても、現場に取り入れて成果を生み出すのは難しい)によって自社の業績もよくなったことに恩義を感じています。ですから協力会社で作る連合会では今回のリコール問題にも一致協力して対応すると明言しています。お互いの協力関係、信頼関係があるからこその発言だとおもいます。
日本国内の派遣切りにとどまらず、赤字決算による株主へ(今や、世界中の株主の多くは年金基金や保険会社など、社会の多くの人の老後やイザという時のサポートをする公器です)また世界中の工場閉鎖や、リコール問題によるディーラーや協力企業へ、そして何よりトヨタを信頼して商品を買った顧客にたいして迷惑をかけたトヨタですが、そういう失敗を糧にして伸びてきた企業なのでした。そしてそういう企業であっても「調子の良いときにあえて踏みとどまる」判断を下すのが難しいということを、自分は学びました。
自分の勤めていた会社が倒産しかかった頃、取引先は先を争って売り掛け金の回収や納品カットに走りました。支援先企業もなかなか決まりませんでした。いかに信頼されていなかったかの証です。希望退職募集時、自分に本当の商売の仕方や商品知識や基本的な商売に必要な数字の計算法などを教えてくれた、力のあるマネジメント職の方々が真っ先に辞めました。そういう経験があるので、おそらくですがトヨタは今回の失敗を胸に刻み、先を拓くのではないかというような気がしています。
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