総合スーパーがダメな訳
最近就労を意識するにつれ、以前働いていた総合スーパー(ゼネラル・マーチャイジング・ストアを略してGMSと言われます)での様々な思い出がよみがえってきました。その中でGMSが苦戦している、あるいは部門によってはそれなりの業績を保っているところの差がどこにあるか、おぼろげばがら分かるようになってきました。もちろん以前からこの「商業・サービス業」カテゴリーにはその手の記事が多くあります。しかし、表からでは分からないだけでなく業界の専門誌を読んでも分からない理由が思い当たるようになりました。
GMSがダメな理由は、部門で好業績をあげるとどんどんマネージャー、店長、部長へと昇進していきその分野の専門家が育たないからです。だからこそ、そこにユニクロ、ニトリ、ヤマダ電機などといった専門店がその分野に特化した人材を育て、一からもの作りをすることで消費者の支持を獲得してきたのでした。以前書いたかもしれませんが、私の父は製パン会社に勤めていて50代の頃は知らない人のいないくらい有名な大手スーパーの焼きたてパンコーナーの運営指導をしていました。焼きたてパンというのは大きな製パン会社の工場で生地を焼き上げる直前の状態で冷凍して店へ運び、そこで焼き上げます。前の記事で出てきた「スワンベーカリー」はタカキベーカリーと提携していますが、焼きたてパンの店は大手製パン会社から冷凍生地を買って自店で焼き上げていることが多い。特にスーパーの中にある店はすべてそうです。生地まで自前という店は相当のノウハウが必要なのでケーキ屋さんなども兼ねて相当の修行を積んだ技術者が経営していると思います。父のぼやきの中には「担当者が2年3年かけて育ったと思うとすぐ異動してしまい、また1から指導しなければならない」というジレンマに基づくものが多かったです。
それでも総合スーパーで食料品がそれなりに今までもってきたのには理由があると思いました。他の売り場に配属されると、利益計算も、商品知識(どのシーズンにどういう商材がどのくらい売れるかや、ある商品がどのように作られるのかといったもの)もないままOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング=現場で教わる)という名目で現場に配属され、遥かに時給が下だけれども年齢と経験は豊富なパートさん(多くは主婦)の中にひよこのまま送り込まれます。OJTとは言いますが、上司は数字をあげるのに精一杯で新米を1から教育する時間もノウハウもないのです。仮に教育したとしても1年も経てば店や会社の都合で異動してしまいます。特に高卒の新入社員は全くなにも知らないまま、自力で何かをつかむ力のない子は1年経たず脱落していくのです。ところが食品だけは違います。徹底的に現場で仕込まれるのです。数字も商品知識も売り場の管理法も。なぜなら特に生鮮食品は鮮度が勝負だし、衛生面でほんのちょっとでも隙があれば食中毒事故を起こし会社そのものの信用を危うくするからです。産直品は鮮度をアピールするために欠かせませんが利益率が低いので、利益率の高い加工品とミックスして利益額をきっちり稼がなければなりません。そのために丁稚並みに仕込まれるのです。休日出勤や無給の時間外労働はは当たり前です。食品部門の労働時間と非食品部門の労働時間にはすさまじい差があります。加工作業を外注できるようになったのはごく最近のことでしょう。昔ほどは食品部門の労働時間はひどくなくなったと聞きます。
そこまで仕込まれている人材がいるから、かろうじて食品部門だけが崩壊を免れていると言えます。自分が商売の「基礎のき」である簿記も知らずに「粗利益」「営業利益」「経常利益」の区別も教わらず10年も仕事が勤まったのは奇跡的です。労働組合の役員をやらされ(自分のいた会社はユニオンショップ制といって正社員は自動的に全員組合員になる仕組みでした)、下駄履き(無給労働)で様々な教育を受けなかったら、今でも何も分からないままだと思います。10年間の会社員生活で、自分が「分かった!」と本気で納得できるようなことを教えてくれた上司は組合も通じて3人だけです。そのうち2人は、自分がうつ病の悪化で退職した頃、別の理由で会社に見切りを付けて辞めています。
専門家も育たないし、マネジメント職も社内政治に長けていないと業績が上がらないので、マネジメント力のある人は少数です。社内政治のすさまじさ。社長や実力のある経営幹部が店の現場を回る時には、事前に人事部や管理部から知らせが行きます。店長は総力を挙げてそれらの人がなにを聞くか、なにを見るか予習して、それに対する模範解答を出すよう部下に強要します。まるで先日の日経ビジネスで元新日鉄副社長が現場に出向いて道路公団の管理職と話をするときの「お役所体質」と揶揄した情報ネットワークが民間の、消費の最前線で繰り広げられていました。利益を出すことより自分のぼろを出さないことに注力する中間マネージメント層が大多数という体質の会社の経営が悪いのは当たり前でしょう。小型店で人的パワーが少ないのに毎日2時間、会議と称して社員のつるし上げをやっている店長、それをしらないふりをする人事・管理部門、本気で問題にしない労働組合。みんな共犯です。
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