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2006/03/07

総合スーパー(GMS)の限界

25時を回りました。本当は寝なければいけない時間ですが、もう少し・・・。

総合スーパー(GMS)というのは間違いなく滅亡の道をたどるのだと思います。ヨーカドーは商品を入れ替えれば客が来ると思っているみたいですが、本当に勘違いもいいところです。

どこがだめなのか。答えは組織にあります。GMSにはスペシャリストを育てる組織形態が全く無いのです。たとえば自分の古巣マイカルで説明しましょう。

正社員で入社すると1年はスタッフとして売り場の仕事を覚えることになりますが、特に大卒の社員は食品を除き1年もたつとどこかの売り場の主任にあてがわれます。それが全然1年目の売り場と違うことはざらです。上司がいる間に商品の専門知識を習得できればいいのですが、そういう伝達の重要性は全く無視されるのです。転勤もいきなりです。半月前に辞令が出ればいいようなもので、1週間も無い場合もあります。引継ぎということはほとんど行われません。値引きロスの持ち越しがいくらあるとか、商品の持ち越し(持ち越すなよ!)がどのくらいあるとかいった程度で、売り場の客導線や客層、一番売れる場所売れない場所、パートさんを始め部下の性格と対処、お得意様やクレーマー(本当の意味でちょっと困るお客さん)など、どれも経験があればこその大事な情報ですが、全く引き継がれません。転勤先で担当者はまた1から積み木を積み上げなければなりません。

こんなことをしているからだめな例があります。一応某大手スーパーということにしておきます。自分の父は家庭運営は極端にダメな人でしたが、製パン会社に勤めていてまだ自分が幼い頃ヨーロッパへ研修に行って仕込んだ腕のたつ人です。70過ぎてまだパン関係の仕事で給料をもらっている、親としては???な人ですが技術者としては相当なものです。某スーパーの焼き立てパン部門は父のいた会社とスーパー側の共同開発で、ノウハウは父のパン会社から伝えられていました。

父はこの焼き立てパン部門に専門で関わっていた時期があるのですが、スーパー側の物の知らなさにあきれ返ったといいます。基本的にお店は10時(最近はそうとは限らないところが増えましたが)に食品も一応一通り品揃えをするのが建前になっています。このタテマエを無理に強要する管理職がたくさんいるのです。豆腐屋さんと同じく街のパン屋さんは朝早くから仕事をしています。大体朝5時くらいには本格的に作業にかかって10時頃大体全部の品揃えが出来るのです。ところが大型スーパーは近隣が住宅地の場合納品時間に制限があったり、営業時間が長いために要員がそろわなかったりするために、たいてい本格的に仕事に掛かるのが朝7時くらいになります。当然10時の開店には商品は全部はそろわないのです。

ところがスーパーの管理職というのは専門知識に疎いのです。何が何でも10時に全部品揃えしろ!と無理な要求を出します。父の関わっているお店でははっきり「ノー」といいます。すると「同じスーパーの別の店では10時に完全に出来ているのになぜここはできないのか」といってくるのだそうです。そこで父は指摘された店にその管理職を連れて行き、10時開店の際に店の商品を見て前日に焼いたものを次々指摘します。アマチュアには分かりませんがプロなら一目で分かることです。管理職はその店の担当者に確認すると「その通り」といわれるそうです。そこからやっと管理職の理解の下、作業が正常化します。ところがその管理職は1~2年で転勤し、またわけの分からない管理職が同じ事を言い出すのだそうです。

スーパーの焼き立てパンコーナーで開店時にすべて品揃えが出来ているような店には行かないほうがいいですよ。前日のものを食べさせられますよ。

一事が万事これです。先日キャラのジャスコの紳士コーナーは良く出来ているなーと思ったのですが、これは2通りの意味でよく出来ていると思ったのです。対お客様向けと、対上司向けの相反する要求を見事に調和させた売り場を作っていたのです。ベテランの売り場だと感心したのはこういう点にあります。

GMSの人事制度にはスペシャリストをきちんと遇する体制が全くありません。マイカルの場合、自分がいた頃は昇格試験に通れば現場のベテラン社員でもそこそこの給料をもらえる制度になっていました。しかし経営が傾きだした頃からおかしくなり、管理職にならなければ給料が上がらない人事制度になりました。現場にいる限り、たとえ昇格試験に通ったとしてもいずれ降格させられます。ほとんどのGMSがこうした制度になっています。ですからスペシャリストは育ちません。現場を知らずに管理職になるのですから自然と目線が上向きになって、顧客のことなんかそっちのけの店長・バイヤーが出来るわけです。自分はその究極の形態がイトーヨーカドーの「アリオ」だと思っています。最悪です。

モール型ショッピングセンターが隆盛なのは、専門店の専門度の高さにあります。コムサをはじめとするSPAという専門店は、企画から生産、流通まですべて自社で手がけています。ものづくりの現場を知らなければ売り場も出来ないのです。自社ですべて在庫責任を負うわけですから粗利益率も高いです。びっくりしたのは問屋をとおした品揃え店でもライト・オンというカジュアル専門店では粗利益が46~47%もとれるのだそうです。スーパーの衣料品総合値入より高いです。こういう数字をたたきだせるのは300人あまりのショップ店長がシーズンごとに3日間泊りがけの店長会議に参加しメーカーも参加して商品の着こなしや組み合わせなど商品情報を共有することと、徹底して現場に仕入れ権限を持たせたことなどが功を奏しているとのこと(詳しくは日経ストラテジー2005年11月号をご覧ください)。見切りを減らし、自分の仕入れたものだから一生懸命売ろうというモチベーションを引き出すことで最終的にこうした高い粗利益率を確保できるのです。こんなことGMSでは考えられません。

GMSの人事は結局のところいす取りゲームです。実績を上げた人が管理職になりパイがだんだん狭くなる構図です。そしてスペシャリストの力を全く評価しないのがGMSです。自分の仕事を深めていく面白みが無いために、現場で理想を追い求めたい人はさっさとやめていきます。結果「裸の王様」のような管理職ばかりになっているのです。

GMSの問題は品揃えや売り方にあるのではありません。組織にあるのです。そこが分からない鈴木敏文はとっとと引退するべきでしょう。

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